ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

売れ筋ランキングブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの  
ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの

ブラッカムの爆撃機―チャス・マッギルの幽霊/ぼくを作ったもの


価格:¥ 1,680(税込)
岩波書店  (2006-10)
/ロバート・アトキンソン ウェストール/
単行本 223ページ
売れ筋ランキング:26149
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何年も前に初めて「ブラッカムの爆撃機」を図書館の児童文学のコーナーで見つけたときはてっきり職員がおき間違えたのではと思ったほどその完成度の高さに驚愕した。どこかのパブでの問わず語りではじまる冒頭からぐいぐい物語りに引き込まれてしまう。本当はエンジン音で声さえ聞き取れないほどであろうに静寂感さえただよう機内、夜間戦闘機と死闘、夜間爆撃の濃密な描写などを通じて読者はいつしか物語の世界へ導かれ主人公と同化していく。これはもう上質な大人のミステリーである。
本書は宮崎駿氏の尽力による単なる復刻にとどまらず氏の書き下ろしや作画、ウエストールの生涯の解説などを加えたスペシャル版となっている(中でも氏の作画によるC号機の図解は必見)。私はつくづくこのようなすばらしい作品を読める英国の子供たちがうらやましいと思う。

 『ブラッカムの爆撃機』は、驚いたことに児童文学である。ドイツ本土を空爆する任務を帯びた、主人公(航空無線士のゲアリー)たち英国空軍の爆撃機の機長と搭乗員が遭遇する不思議な事件を中心に、彼ら若き兵士達の日常を生々しく描いている。従軍経験を元にした戦記や小説はたくさんあるが、「兵士達の戦場体験」というテーマを青少年を対象として書かれた作品が存在したとは夢にも思わなかった。しかも、爆撃機内の描写はさりげないが、非常に精密である。作者が自らの体験を書いているのかと思えるくらい、リアルである。児童文学ながら、戦争の悲惨さをことさら声高に訴えないところも良い。過酷な爆撃任務の中でもジョークを忘れない兵士達の、精神の微妙な起伏を描き切ることで、彼らが直面し、避けることのできない「死が日常的な存在である」戦争の空気を見事に伝えている。

 緊張感あふれる文体、青少年対象としながら(実際、文章は平易である!)、現実から目をそむけないウェストール氏の姿勢には心底、感嘆させられた。こんな児童文学が誕生する英国が相手では、ドイツが戦争に勝てなかったのも当然だと思う。

 意外な展開と感動的なクライマックスに、不覚にも落涙してしまった。文句なしに、傑作である。
宮崎駿がウェストールに傾倒しているのはよく分かる。
しかし、マンガの中でウェストールに言わせている
「少年の忠誠心を否定してはいけません」
という台詞は、どこから持ってきたものなのだろうか。
小説を読めば分かるように、ウェストールは、
あくまで複眼的な視点を常に保っているはずである。
彼の小説を、単なる戦争オタク的なものに摩り替えてはいけない。
宮崎駿のマンガを読むことで、一種のフィルターを通した
「ブラッカム・・・」を読むことになるのだとしたら、
これは大変不幸なことである。

ちなみに、ウェストールのこの作品自体は
大変印象深い、よく出来たものであることを、付け加えておきたい。
 第二次世界大戦を舞台にした短篇が二本と、自伝エッセイ風の掌篇が一本、その前後に宮崎駿の漫画「ウェストール幻想 タインマスへの旅」を収めた一冊。
 表題作「ブラッカムの爆撃機」が、とびっきり面白い作品でしたね。1943年のイギリス対ドイツの空中戦。イギリスのウェリントン爆撃機、通称ウィンピーをめぐる怪談話。まず、見開き二頁にわたって描かれた宮崎駿さんの「主人公ゲアリーの乗る(ウィンピー)C号機」の構造図が有難く、話を読んでいく時にとても参考になりました。そして、ウェストールの小説の何て面白かったこと! C号機クルーたちの連帯感が生き生きと描かれていたところ、よかったなあ。話の途中から、大空の恐怖みたいな話が展開していって、そのテンションがちっとも落ちないどころか、終盤に向けてぐんぐん上昇していくスリリングな感じ。これ、すっげえ面白ぇえええ!と、ゼッキョーしながら(心の中でね、もちろん)読んでいきましたよ。爆撃機ものの中・短篇では、フォーサイスの「シェパード」、稲見一良の「麦畑のミッション」とともに、大好きな作品になりました。
 次の「チャス・マッギルの幽霊」は、戦争がはじまった1939年にエルムズ屋敷に移り住んだ少年チャスが、その大きな家で幽霊と出くわす話です。ピアスの『トムは真夜中の庭で』とか、アトリーの『時の旅人』みたいな雰囲気が好ましいファンタジーでしたね。物語がくるりと回転してフェイド・アウトしていくラストに、格別、妙味を感じました。
「敵」という言葉があります。
本書を読んで、果たして本当に「敵」が存在するのか、と考えてしまいました。
「敵」にも両親、兄弟姉妹、思いを寄せる人などがおり、人間的営みをしております。
実際のところ、「敵」とは権力者側が作り出したイメージ・幻想に過ぎない、と思いました。
この権力者は実体のないに「敵」に向かって、「我々=味方」の若人たちを投入します。
そして「味方」と「敵」の若人たちはただ純粋に名誉ある行動をしていると信じ、
戦場で散っていきます。
「味方」も「敵」も同じ人間である、
というこの世界の原点にやっと到達できた感じがしました。
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