目白雑録〈2〉―ひびのあれこれ |
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1年近くも積ン読しといて何を白々しくと思われそうだが、文句なく面白い。料理から老いた飼い猫、小説や映画から政治・メディア・評論と、驚異的なまでのジャンル的雑食性を示しており、強靭な胃袋に呆れてしまう。 金井の鋭い批評性を前に無傷でいられる人間など皆無に等しくて、金井が最大級の賛辞を贈る蓮實重彦についてさえ、長谷正人による蓮實批判の検討にかこつけて嫌味を言うことを忘れない(p106)。大体、金井は小津は好みじゃないと言ってるし…だから、金井を読む愉しみとは、かなりマゾヒスティックな性質のものだ。 『スクラップ・ギャラリー』(これも積ン読してる…時々覗くけど)に対する野崎歓の「わがままと接した断言の面白さ」という評言が本書あとがきに引かれているが、私はむしろ、たしか金井に軽蔑されている評論家・加藤某がハンナ・アレントを論じたときにクローズアップした形容詞flippantを想起する。ま、形容詞はどうでもいいか。 しかし、ビュトールの二人称小説の件はネェ…とりあえずは『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』と、その本への私のAmazon reviewを覗けば経緯を呑み込めると思うが、金井は自分の大ポカを謝罪・訂正する気配など微塵もなく、素知らぬ顔で更なる知識を繰り出して福田和也・島田雅彦を笑い者にする(p62)。胃袋も強靭なら、精神も強靭だ。降参です。 金井さんの書かれる小説はセンテンスの長いのが特徴(もちろん他にもいっぱいありますけど、文章が読めるならば誰でもが分かる特徴の事)ですけど、これって頭の中で物事を考えているときの思考にそっくりで私ははまってしまったのですが、エッセイもまた凄いです。 切れ味鋭すぎる批評と言葉の選び方が絶妙です、鋭すぎてなかなか好きとカミングアウトしにくい(特に男の場合、金井さんは「男」には興味がないと、公言しておられます)作家です。 今回は2004年5月から2006年4月までの連載で、この約2年間を時事ネタをちょっぴり含みながらも、ほとんどは関係の無い飼い猫トラー(もう16才になるけど喧嘩もまだする老猫)や映画(ゴダールや成瀬巳喜男とか)やサッカー(どうもFCバルセロナがお好きで、チェルシーのえげつない勝利至上主義は嫌いみたいで、ロナウジーニョとアンリのファン)の話しです。 ほんとに鋭い批評性とその鋭さを自分にも向ける潔さとか、いろいろあるのですがとにかく一読をおすすめします。 特にやって欲しかったのは、自分のことをセクシーだと信じて(思ってるのではなく、信じて いるが笑える)いる男を南伸坊が「ホンニン」になってもらって写真を撮り、金井さんが文章を書く という連載です、(ちなみに記念すべき弟1回はラムズフェルドの予定)絶対評判の企画だと思うんですけど。 イラク人質解放に際しての某政治家のみみっちく傲慢な説教ぶりにあきれ果て、青山ブックセンター経営再建への偽善的で「幸福の手紙」みたいな署名メールの輪にむかむかし、灰かぶりキャベツを「生産農家への支援」と語って一個百円で買う主婦に「安いから買ったと言え」と啖呵を切り、今さらながら「近代文学は終わった」という某評論家を「二周遅れの長距離走者」と喝破し、中原昌也を「ああ見えて、実に教養豊かで、誰も読んでいない本、誰も見たことのない映画に詳しい」と揶揄する某作家に、私の読んでいない本、私が見たことのない映画と書け、と欺瞞を暴く。以上の「某」はもちろん全て実名で、相変わらず、あまりの鋭さと流れるような文章の巧みさに惚れ惚れする。 そんな中でふっと頬が緩むのが、深夜、雨の中、隣の駐車場のベンツの下にたてこもったトラーをあの手この手で救出しようとするくだりや、前著「目白雑録」の単行本の見本刷りが届くくだり。金井氏も、ブックデザインを手掛けた姉久美子氏も、“幾分ワクワク”して、それぞれ見本刷りを手にして自室に籠る。出来たての本を眺め、ページをめくり、“絵やオブジェを完成させたり、小説を書きおえた時とは別種の、一冊の本が出来あがった時の興奮というものがあって、それを手にするたびに、私は本によって作られてきたのだ、という気がややオーヴァーにして、子供の頃から表紙を開いては読んだ様々な本の感触が呼びさまされ、あんなに好きだったんだもの、ほらあ、やっぱり私たちは本を作ったんじゃないか、という幼稚な誇らしさを、電気を消した寝床の中でそっと微笑で呑み込む”……毒舌も、博識も、平成の小説の神様とも言える才能もさることながら、金井氏の素晴らしさは、ページをめくる指の歓びを存分に味わわせてくれることなのだ。 (1)同様、ところどころ爆笑しながら読んだ。内容以上に語り口が楽しめる。世にあふれる理不尽な人や物事(その多くが“男性”的)に悪態をつき、自分の物忘れを姉妹で笑い飛ばし、老猫トラーをいたわり映画を楽しむ日々が、長すぎるように見えて実は明晰な文の連なりによって語られる。作家の身辺雑記の中には、人生訓の含有量の異様に高いものもみられるが、金井はいうまでもなく教訓とは無縁。 この本をとくにお勧めしたいのは、斎藤美奈子のファンで、かつ、斎藤美奈子の理詰めの礼儀正しい悪態にときに物足りなさを覚える方々。 目白雑録〈2〉―ひびのあれこれを楽天で検索 |