モンゴル帝国と長いその後 |
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杉山正明氏の一連の著作と重なる部分も多いが、興亡の世界史シリーズの一環として構成された一冊である。 チンギス家、モンゴル帝国、大元ウルスの興亡について、その「神話」や「偏見」のベールを壮大にして緻密な史料批判によって剥いでいき、正当な世界史像を提示していく。「国民国家」や「民族」、「大航海時代」なる用語や概念が西洋や中華史観の一面的なものに過ぎないことを示す。西洋や中国、インド、中東、そして日本もモンゴルの強烈なインパクトを相当に被っているのである。その結果提示される世界史像は我々の既存概念とは大きく異なり、驚く方も多いであろう。 真に21世紀の人類が共有できる世界観が目指されている。杉山氏の同構想の著作や、同シリーズの関連する著作にあたり、より深い世界史の思索を楽しまれることを勧めたい。 同じ講談社の「中国の歴史」シリーズ、第09巻『海と帝国』(上田信著)には、 明清時代の500年が、おもに海上交通の重要性という視点から語られていたが、 明朝は初期の永楽帝時代を除けば、むしろ内向きの帝国であって、 土木の変以降、絶えず北虜南倭に悩まされ続けていたし、 元来、内陸アジアの騎馬遊牧民の系譜に連なる満洲族が、 モンゴル諸族と連合して漢民族を統治した清朝(ダイチン・グルン)にしても、 あくまで全体の構図の中では、やはりランドパワーとしての優越性は明らかだと思う。 従来の歴史学においては、15世紀末以降の「地理上の発見」に始まる 西欧諸国のシーパワーとしての台頭のみに「世界史」の誕生が求められ、 逆に、それよりも2世紀遡るモンゴル帝国時代において初めて出現した、 アフロ・ユーラシアをつなぐ緩やかなまとまりの重要性は、 必要以上に無視されるか、むしろ貶められさえする傾向があったという。 著者が言うように、これが西洋人による「知の虚構」にほかならないのだとすれば、 より偏りが少なく、現代においても有効な世界像を我々が手にするためには、 いずれ覆さなければならないはずのものだろう。 また、これはランドパワーとシーパワーの相克という、 きわめてアクチュアルな地政学上の命題と密接に関わる主題でもある。 20世紀に陸海を制して、ついには「空の帝国」と化したアメリカが 21世紀初頭に至ってはじめてユーラシア中枢部(いわゆる「ハートランド」)に 直接足を踏み入れたことの重要性ははかり知れないが、 モンゴル帝国時代までを大きく視野に入れることで、 そのことの意味をより深く掘り下げて理解できるという体験は、 歴史書を読むという行為の醍醐味と言えるかもしれない。 モンゴル帝国と長いその後を楽天で検索 |