夏光 |
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受賞作である表題作、それから雑誌に載った最後の短編は面白かったです。 若い著者さんなのに、戦時中背景の小説をあそこまでリアルに書けるのは凄いと思いました。 終わり方もきれいで良かったです。 ただ書き下ろし作品については、そこまででもなかったかな、という・・・ 先が読めてしまったのもあったし、 無理矢理体の一部でホラーを作ったという感じがしました。 今後の作品は面白くなっていくんじゃないかなあと思いました。 ホラーの女王降臨、なんてオビがついていたけど、彼女をホラーというジャンルでくくるのはとても惜しい。 この短編集に収められた作品の中で、子供の目線から語られるいくつかの作品は、郡を抜いておもしろい。それは決してホラーではない。 視力や嗅覚などのとても原始的な力で世界を嗅ぎ取る力は、子供のころは誰でも持っていたはずの力だったかもしれない、忘れてしまっただけで。 そう思わせられるほどに、乾さんの描く子供たちの持つ力や視線は非常にリアルで冷徹だ。 死を見ることができる少年を描く「夏光」、相手のこころを匂いで知る少女が観た世界「風、檸檬、冬の終わり」、飛ぶ少年が登場する「Out Of This World」、どれも見事だ。 これが乾さんの実質のデビュー作だそうだが、ぜひとも今後、乾さんには、ホラーにこだわらず、子供の鋭い目線から描き出した(それは決してジュニア小説だのファンタジーだのというジャンルにくくられるものでもないだろう)ぎりぎりのカタチの現代小説を書いていただきたい。 現実にはあり得ない能力をもつ人々や漫画のような設定の小説は、ずるい感じがしてあまり好みではありません。 しかしながらこの本、引き込まれるように最期まで読んでしまった! 不気味なものと美しいもの、残酷な運命とこの世界への愛情とを図と地のようにして引き立たせる物語の構造、著者の鋭い五感など私の(少ない?)読書経験には新鮮でした。 何より読後感の切ない感じがいいですね。私は生命への肯定的なメッセージ、しっかり受け取りました。 次回はこの著者の「あり得る話」ぜひ読みたいです。 非常に良く書けていると思います。 読みやすく、心理描写も丁寧で、とても楽しめます。 すべての短編がとにかく切なく、普通の文学として評価していいのではないでしょうか。 ホラーと呼ぶには怖くなく、モラリスティックすぎる嫌いはありますが、逆に安心して読めるともいえます。 デビュー作ということで無難にまとまっているのかもしれませんが、新人作家の本としては、視点の新しさや独特の感性を感じないのも気にかかるところではあります。 矢島正雄・弘兼憲史の『人間交差点』に、スティーブン・キングのエッセンスを加えて小説にしたような感じを受けてしまうのです。 別にそれでも面白いのでいいのですが。 驚くべき筆力を備えた新人が現れたものである。この作家の扱うテーマは重苦しく、ホリブルで、その表現力は腐臭漂うグロテスクな世界を描き出しており、正視するに耐えない。しかしそれだけでは、この作家を凡庸なホラー作家へとしてしまっただろう。 では、この作家の魅力とは何か。 作品の筆致は繊細で、虐げられし者への哀切に満ちている。また表題作で扱われる「原子爆弾」に象徴されるように歴史社会的な的視点も組み込まれる。「ホラー小説」というジャンルを超えて、この作家のグロテスクなまでのイマジナリーな視点は、私たちを新しい世界へと連れて行く。この小説のイマジナリーな世界こそ、実のところ、リアルな世界に通じているのだ。これこそ小説を読む悦びではなかったか。この作家が凡庸なホラー作家でない証左である。卓越した作品ほど「ジャンル分け」することは空しい作業だ。 『夏光』は新人作家の小説として今年一番の収穫である。次回作に心から期待したい。 夏光を楽天で検索 |