歴史の作法―人間・社会・国家 文春新書 (文春新書) |
|
売れ筋ランキング > 歴史の作法―人間・社会・国家 文春新書 (文春新書)
歴史学にとって非常に重要で基礎的なことを延々と述べている本。にもかかわらず具体例として扱っている事象は高校世界史を逸脱するようなマニアックなものであり、本書のターゲット層を今ひとつ測りかねる。文章も、端的に言って読みづらい。 ただし、ご本人の講義をテレビ等で見たことがある人なら知っているだろうが、山内氏の生の授業は大変おもしろい。なぜこれが文章にも生かされないのか、疑問である。 「歴史とは何か」 この大きな問について、日本のイスラム史の碩学がこれまでの自信の研究歴や思想遍歴を基に考察した成果がこの書である。 決して読みやすい書ではない。 文章は生硬であるし、各地・各時代の典籍を縦横に駆使し、名言を多数引用するので、一定の知識がない人は展開について行けないであろう。 「天道是か非か」 「歴史は過去の政治にして、政治は現在の歴史なり」 といったあたりが著者の主張を凝縮した言葉であろうか。 歴史とは単なる過去の事実の集積ではない。 歴史は著述であり、人を動かすものでなければ意味がない。 事実の中に価値を、意味を見いだす営為こそが歴史である。 そこには時間の流れと共に人間の意志がある。 『歴史の作法』というタイトルは、一見、歴史叙述のマニュアル書を連想させる。 しかし、細かな叙述方法に言及することはない。 本書は、主に日本史・中国史・イスラーム史を扱う。 著名な歴史家の著作をふんだんに引用しつつ、その意義を考察している。 歴史学とは、哲学とは違い、具体性を重んじる。 少し穿った見方をするならば、歴史書の紹介本と言えなくもない。 歴史家は、過去にばかり目を向けるのではなく、 日常的にごく当たり前に使う「歴史」という言葉。誰もが興味を持ち、知りたがっているが、あらためて考えてみればその実体は霞のようにとらえ難いのが歴史の本性だろう。研究の手法は科学のようでいて、叙述という形式は文学的でもある。そもそも、歴史とは何なのか。そして、本当に歴史に真実はあるのか。特に専門家にとって、これらは影のようにつきまとう難題に違いない。 こうした歴史の根本的なあり方について、「人間・社会・国家」を枠組みに据えて考察したのが本書である。『イスラームと国際政治』などで知られる博学の歴史学者、山内昌之の問題意識は主に3点だ。第一は「人間の営みは歴史のプロセスの前で無力なままに消え去るだけにすぎないの」かということ。つまり、歴史学の存在意義について。第二は「歴史は科学なのか、それとも文学なのか」。第三は「歴史と現実政治との関わりについて自分の理解を整理すること」。 著者自らが「永遠に答えの出ない大きな問い」と語っているように、本書で断定的な答えは得られない。しかし、ヘロドトスや司馬遷をはじめ、「歴史学の父」イブン・ハルドゥーン、ギボン、内藤湖南、吉田松陰など、古今東西約200人の歴史家の例を引用し、一連の営みをひも解く過程は含蓄と示唆に富んでいる。専門家の姿勢を問う内容だけあって難解かもしれないが、多くの史料を厳密に引用して語られる本書はその文体も含めて、歴史の作法と本質を学べる真摯な1冊である。(齋藤聡海) 歴史の作法―人間・社会・国家 文春新書 (文春新書)を楽天で検索 |