ECMの真実

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ECMの真実

ECMの真実


価格:¥ 2,310(税込)
河出書房新社  (2001-01)
/稲岡 邦彌/
単行本 270ページ
売れ筋ランキング:142609
ヒューブリス
アーケイド
Horizons Touched: The Music of Ecm
The River
Anthem

「ECM公国クラブ」が長年苦手だった・・・。
六本木高級クラブで非の打ち所のない美女が隣に座り、何ひとつ会話が噛み合わなかったあのにが〜い経験に近い。いやぁ申し訳ない、君に非は何一つないんだけどね。
ジャズは、いつも一人の青年をおとこにする。
そのジャケットから受ける高尚なブランドイメージはもちろん、ブルーノートやアトランティックのジャズを一身に聴き続けた身としては、その醸し出す音があまりに白いとしか感じられなかった。我ながら、鈍感である。アート・アンサンブル・オブ・シカゴの復活後ECM録音は、正直あまりアトランティック期ほど頻繁には聴かなかった。

この本も、読むまでに2年の決意がかかった。我ながら、かかり過ぎだ。
日本人は、硬派なドイツ人が昔から好きである。マンフレート・アイヒャーというアルフレッド・ライオンと肩を並べる稀代の名プロデューサーは、どこか頑固で意思を曲げない昔の日本人を痛烈に思い出させる。
「すでに評価の定まったものには興味がない」
自社ニュー・シリーズにこだわった運営にも、その姿勢は顕著だ。設立37年、総製作数約800枚という数字もそれを裏づける。つまり世界中の良質なジャズファンに支持されて来たのだ。インディーレーベルだから可能だという分析は、残念ながら当たっていない。独自信念を音楽製作に置き換えた結果であり、コンテンポラリー・ミュージックの結晶である。

この本は、その見事な構成はもちろん、日本人がここまで当時関わっていた事実を知るだけでも、かなり読み応えがある。後半も関係したミュージシャンからその偉業を認めながらも、公然とアイヒャー批判が噴出しているものまで収録する、編集の懐の広さを感じさせる。単なる内幕暴露の次元に陥ることなく、優れた入門書として何回も読める耐用性にも優れている。我ながら気付くのが遅かったと思えど、青春は戻らない。

小曾根真氏の談話が、このレーベルに対する印象を要約してくれたので最後に紹介したい。

「金と権力が大手を振って歩いていた時代に、よくまあ、これだけ自分を貫いたものだ。」





筆者の稲岡氏はトリオ・ケンウッド時代に当時新興レーベルだったECMレーベルと日本における独占契約を交わした張本人である。張本人でなければ知りえないビックリする真実が詳細に語られていて、マンフレート・アイヒャーの作り上げたECMを知る上で必要不可欠な一冊となっている。
構成は2部構成で第1部がECMの歴史を語る『ECMの軌跡』、第2部がアイヒャーの力に引き寄せられたミュージシャン・エンジニア・ライター・スタッフ等関係者41人が語るマンフレート・アイヒャーに対するコメント集『ECMの伝説』である。
この中で語られている事象はずーっとECMを聴き続けていた僕にしても眼から鱗の話ばかりだった。全プロデュースをアイヒャーが手がけているわけではなかったスタート時の頃の話や、ECMを構成している重要な人たち、特にアート・デザイナーのバーバラ・ヴォユネシュ、静的イメージのカメラマンのディーター・レーム、録音エンジニアのヤン・エリック・コングスハウクとの関わりの始まりの部分が興味深かった。
そしてやはりキース・ジャレットとの部分がもっとも興味深かった。新作『ジ・アウト・オブ・タウナーズ』では区切りの1900番を与え、ECMのお膝元でのライブを収録。全曲アルバム初。トリオ結成20年と力の入った一枚としている。ジャレット自身のECMで残した作品に対するコメントと重なった。
それは、『発売6ヶ月後のセールスよりもアートとして10年という年月に耐えうるか』である。ECMの音楽はまさにそれを実地でいったものだった。当初は亜流であったマンフレート・アイヒャーの作り上げたECM。今やジャズ界全体の救世主であり本流であるばかりでなく、アートとしてのジャズを100年先まで錆びることなく残した。その軌跡を知る重要な一冊である。
独ECMの歴史を時系列にそって紹介している本かと安直に予想していたが、心地よく裏切られた。これはECMというよりは、あまり知られていないマンフレート・アイヒャーの素顔を垣間見せる内容になっている。

クレバーな切り口である。今のECMはまさにアイヒャーの軌跡であり、彼とアーティストたちによって築かれたものだ。したがって、アイヒャーについて語ることはそのままECMの歴史について語ることになる。

また独ECMレーベルについてだけでなく、日本においてECMが根付いてゆく過程がしばしば紹介されている点がさらに興味深い。日本の関係者にしか書けない非常に重要な証言である。


   1960年代後半は、マイルス・デイヴィスがモード奏法を確立するなどジャズの革新が進んだ時代であり、ヨーロッパでは、新進のミュージシャンによる音楽共同体が生まれた時代である。ジャズ・レコード界では、ドイツ人により設立されたハードバップの牙城ともいうべきブルーノートから、同じドイツ人によるコンテンポラリー・ジャズのECMへバトンが渡された時代といえる。そのECMを設立し、今日までプロデューサーとして活躍しているマンフレート・アイヒャーを中心にECMを語っているのが本書である。

   ECMのサウンドは、紫煙とアルコールに象徴されたオールドスタイルのジャズと一線を画している。「沈黙に次ぐ最も美しい音」というコンセプトのもとに構成された音は、どちらかといえばジャズの亜流という評価に甘んじていた。しかし、設立より30年以上にわたり独自のビジョンを貫き通していることは、売り上げ重視のメジャー・レーベルにはない魅力である。

   著者の稲岡邦彌は、ECMの初期10年間に、日本のレーベル・マネージャーとしてかかわった人物であり、アイヒャーはもちろん、ECMミュージシャンとも親交の深い人物である。とはいえ客観的な見方に終始しており、読みやすい。

   第1部では、年代別にECMとその音楽の変遷をたどっている。既成のグループを極力使わず、自らのイマジネーションを駆使してアーティストの組み合わせを決定した、アイヒャーの音楽哲学が明らかにされている。譜面のない、自由な即興演奏を愛したアイヒャーのプロデュース術はもちろん、ジャン・リュック・ゴダールの映画音楽プロデューサーとしての活躍など、コンテンポラリー・ジャズを超えた彼の仕事ぶりが興味深く描かれている。

   第2部は、ECMの関係者やアーティスト41名によるECM論である。アイヒャーを天才として敬愛し、彼の描く音楽ビジョンに心酔している人や、アルバムジャケットのアートワークからECMを語る人、録音技術を論ずる人、そして、逆にマイナスの評価を下すミュージシャンの発言までもが取り上げられており、それぞれの証言から、アイヒャーとECMレーベルの強烈な個性が浮かび上がってくる。

   ファンならずとも、ひとりの男の信念が作り出した音楽の歴史物語として興味深く読める作品だといえよう。(朝倉真弓)


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