ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ |
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曲目リスト
ベートーヴェンの三大ソナタに「テレーゼ」を加えた作品集。特に「月光」は曲に深くのめり込んだ名演という感じである。個人的にはギレリスの「月光」が厳冬の冷え冷えとした空に輝く月ならば、こちらは、中秋の名月のように暖かさを感じさせる演奏である。ギレリスの硬質な力強い音も好きだが、ゼルキンのような深い精神性と暖かさを感じさせる演奏もまた良い。バックハウスやグルダ、ルービンシュタインなどと聞き比べてみると、それぞれの味が合ってまた新鮮に聞くことができる。飾り気のない直球勝負「悲壮」「熱情」もそれぞれ素晴らしい。ベートーヴェンのソナタ録音には慎重であったといわれるゼルキンが、全集を完成せずに亡くなってしまったことが本当に惜しまれる。 少し前、車の中でラジオをつけたら、NHK・FMから、「熱情」が流れて来た。その力強いタッチと、それで居て、明鏡止水とも呼ぶべき静けさをたたえた演奏に打たれた私は、一体、誰がこんな「熱情」を弾いて居るのだろう?と思った。やがて、その素晴らしい終楽章が終はり、アナウンサーが演奏者の名を告げるのを待つと、アナウンサーは、それが、ルドルフ・ゼルキンの演奏であった事を告げた。−−それから間も無く、このCDを買った私は、ゼルキンの「熱情」のみならず、「月光」と「悲愴」に、そして、同じくこのCDの収められた「テレーゼ」に圧倒された。リヒテルやホロヴィッツの演奏も素晴らしいが、このCDに収められたゼルキンの演奏は、素晴らしい。−−「明鏡止水」と言ふ日本語は、ゼルキンのこの演奏の為に有る言葉であるかの様である。 このCDの解説文に依れば、このCDに収められた「月光」、「熱情」、「悲愴」は、ゼルキンが59歳の時(1962年12月)の演奏である。(「テレーゼ」は、70歳前後(1973年)の録音)ゼルキンが、最も円熟して居た頃の演奏と言って良さそうである。素晴らしいCDである。こんな素晴らしいCDが、この廉価である事は、クラシックのCDが、値段と内容が一致しない事の良い例と言へそうである。このCDを推薦する。 (西岡昌紀・内科医) ゼルキンの解釈は私の感性にぴったり。あなたはどうですか? 例えば月光のテンポの早さがいいんですよね。非常に現代的な解釈で、これを録音した時のお年を考えると、信じられないほど颯爽として若々しいロマンティシズムに溢れています。何回これを聴いてじーんと痺れたようになったか分りません。 彼は原典に忠実でベートーヴェンの書き残した楽譜の小さな記し等をいつも研究して解釈を原典に忠実にしようと努力していたとどこかに書いてありましたが、私はそれだけではないと思います。これだけ鋭い感性で刃物のように切り込んで行く演奏はなかなか聴けるものではありません。 吉田秀和氏は「私は、『ゼルキン』とは、最大の謙譲をもって、音楽に対する全幅の信頼と深い帰依の一生を送ってきた音楽家だと思う。音楽の官能的感覚的な面、そのかけがえのないみりょくにどんかんだとか、それをおろそかにしているというのでは決してないけれど、しかし、ぎりぎりのところでは、感覚より、音楽作品にこめられた精神、その高貴を選びとり、その精神的メッセージの能うるかぎり忠実な伝達者であろうとする芸術家、いや、そうしないではいられない人間を指すのだ、と思う」と述べた。感情過多や無機質を超えた生硬な精神のピアニズム。 派手過ぎない。それが私のゼルキンのベートーヴェンの評価。同時にベートーヴェンの作品への解釈でもある。烈しい情熱や個性のあふれるベートーヴェン演奏は一般によく聴かれる。演奏会ならそれも良い。しかし録音され何度も聴く場合なら、作品と演奏者の感性が一体化したような神聖な演奏の方が普遍性を持っている。何度聴いても飽きない、何度も聴くほど味が出る。そんなゼルキンのベートーヴェンは私のお気に入りのひとつ。 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタを楽天で検索 |